DONNY HATHAWAY / Extension Of A Man
LP (Atco SD-7029)
Producer: Arif Mardin, Jerry Wexler

ダニー・ハサウェイが生きた、そして歌った70年代は、彼らの社会にとって、またその生活の音となるソウル・ミュージックにとって、模索しながらも信じるものを追い求め、希望を見出していた時代だった。
アレサ・フランクリンが歌う「リーチ・アウト・アンド・タッチ」で、そのタイトル通りに互いに手をさしのべて触れ合い、心をひとつにすることの出来たソウルの時代であり、ダニーはまさにその確かな輝きとなった。
現在も彼の志を支持し受け難ぐシンガーに、グレン・ジョーンズ、アレクサンダー・オニール、フレディ・ジャクスンら大物がいることも注目したい。
シカゴでカーティス・メイフィールドらと協同し、60年代後半のシカゴ・ソウル・シーンに少なからず貢献したダニーだが (45年シカゴ生まれ)、その本格的なキャリアはキング・カーテイスにスカウトされての70年、アトランティックからのものとなる。
中でも73年発表のこのソロ4作目は、ダニーの傑出した才能と個性、ソウル・アーティストとしての自覚を見事に音とし、忘れることの出来ないソウル屈指の名作となった。
名門ワード大学てクラシック音楽を学び、その才覚でソウルの希望をクラシックの手法で表わしてみせたA(1)(クインシー・ジョーンズの同じくクラシック音楽仕上げの「ルーツ」などとは、まるで感触が異なり、志はあくまでゴスペルそのものだ)、後にボビー・ウーマックも歌ってみせたA(2)この2曲の繋がりがアルバム邦題そのもの、「愛と自由」を求める心の昴まりとなり、いつ聞いてもドキドキする。
コーネル・デュプリー、レイ・ルーカスらアトランティックとっておきのニューヨーク・セッション・メンを起用し、キーボード奏者(主にエレキ・ピアノ) の凄腕も示したグルーヴィなインストA(4)、ファンクでゲット一生活のヴァイタリティを表現したB(3)、モータウンの隠れた 名曲となるJ.R.ベイリーのオリジナルをスウィートかつダンサブルにリメイクした B(2)、同じくダニーの得意としたリメイクである、アル・クーパー作品を重々しく激しいラヴ・バラードとしたA(5)さらにレオン・ウェア作のB(5)などはゴスペル・ソウルの一大傑作としたい。
これを最後に、ダニーはシーンから遠ざかり、79年に公式発表ではあるがビルからの飛降り自殺という形で逝ってしまい、あまりに空虚な想いを多くの人にさせたが、その遺した作品が意味するものは、限りなく深く重い。
▶ Some More from this Artist: “Everything Is Everything” (Atco 33-332)
②”Live”(同 33-386)
ダニーのロバータ・フラックとのデュオ作も含む7作はすべてが日本でCD化されている。
みな重要作としていいが、まだ青々しさが残りながらも斬新なひらめき、ときめきを感じさせるデビュー作、そしてそのデビュー時にしてダニーがニューヨーク/ロサンジェルスに代表されるブラック・コミュニティの光源であったことをドキュメントした、まるでゴスペルの心の結びつきを見せる71年発表のライヴ盤②を必須作としたい。
実の顔であるレイラ・ハサウェイが90年にデビューし、逆にダニーは遠く昔の人となってしまった感もあるが、いまなおソウルの指針となっているのは事実である。
転載:U.S. Black Disk Guide©高地明

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