前編で倉敷が爆発したとこまで書いた。午前10時すぎ、稼働はいったん切り上げた。ここからが最終日らしいとこや――倉敷の美観地区をぶらっと歩いて、噂の「ど桃カレー」に突撃して、そのあといよいよ明石への本格的な帰路が始まる。帰り道が、まだ一波乱あるんやけどな。四国縦断の旅、これが最後の記事や。
美観地区、二回目の白壁町家
せっかく倉敷まで来たんやから、美観地区に寄っとくことにした。実は初めてちゃう、前にも来たことある。せやから「うわ〜こんな街並みが!」みたいな初見の感動はない。二回目の、落ち着いた気分での散歩や。
美観地区の近くの駐輪場にバイクを停める。ここは有料で、たしか1時間100円くらいやったと思う(うろ覚えやから正確な額は自信ない)。バイク旅やと駐輪場所はいつも気にするポイントやけど、観光地はだいたい有料と思っといたほうがええな。
8月1日の土曜、快晴、真夏の午前。人出はそこそこで、日傘さして写真撮ってる観光客がちらほら。白壁の町家と、倉敷川沿いの柳並木。川には白鳥がおった。あれ、この美観地区の名物らしいな。暑いなか、水辺だけちょっと涼しげに見えた。




大原美術館のほうまで歩くと、アイビースクエアがある。赤レンガに蔦の絡んだ、元紡績工場のやつや。ただ、中には入ってへん。入口のアーチを外からちょっと眺めただけ。時間もあるし、そこまでガッツリ観光する感じでもなかったからな。



裏通りに入ると、トルコ絨毯の店やら、今風の雑貨店やらもあって、古い町並みに現代の店がちょいちょい混ざってる。美観地区の端っこには古いトンネルもあった。名前は分からん。まあこういう、ガイドブックに載ってへんような細部を歩きながら拾えるのが、街をバイクと足で回る良さやな。


ど桃カレー、名前で身構えたけど
さて、昼メシや。この連載、行く先々でご当地のクセあるメシを食うのが半分ネタみたいになってるんやけど、倉敷で見つけてもうたんが**「ど桃カレー」**。美観地区のなかにある「冨来屋本舗 別館」っちゅう店や。
名前がもう、なんちゅうか、攻めてる。ど桃。桃のカレー。岡山が桃の名産地なんは知ってるけど、それをカレーにするか? 正直「うわ、キワモノ来たな」と身構えながら注文した。
出てきたのがこれや。カレーのルウにも桃が使われてて、ライスの上には白桃のスライスがのっとる。しかも別添えで白桃のピューレまで付いてきて、それをかけて食う。徹底的に桃尽くし。彩りにニンジンのラペやらレタスやらピクルスやら。陶器の平皿に盛られてて、見た目はけっこう洒落てる。

で、肝心の味なんやけど――これが、悪くなかった。というか、カレー単体で食うとちゃんとスパイシーで美味い。そこに桃ピューレをかけると、甘みがのって味変になる。ゲテモノを覚悟してたぶん、「あ、ちゃんと成立してるやん」って良い方に裏切られた。桃カレー、攻めすぎやろとは思うけど、味は普通に美味かった。倉敷来たら話のネタに一回食うてみてもええと思うで。
店内は簾ごしに小さい庭園と灯籠が見える町家づくりで、涼しくて居心地もよかった。真夏の観光の途中に一息つくにはちょうどええ。
ここから帰路本番。まずは岡山で復活のダブル
腹も膨れたし、いよいよ明石へ向けて本格的に走り出す。……んやけど、俺はまだ稼ぐ気やった。帰り道も仕事場や。
美観地区を出て東へ、岡山市街に入る。時刻は昼の13時。街が動く時間帯や。案の定、鳴った。
13:03、お好み焼 千房 岡山大安寺店 ¥473(5.8km/22分)。千房って、大阪発祥のお好み焼チェーンやんな。それを帰り道の岡山で運ぶっちゅうのが、なんか関西の匂いが家のほうへ近づいてきた感じでちょっとおもろい。
で、この千房をピックした地点で、13:07、ミスタードーナツ 大安寺ショップの配達が追加でのっかってきた。+¥359(+4.1km/+17分)。いわゆるダブルや。1回のピック動線で2件さばける、効率のええやつ。
岡山ダブル、2件で¥832。ここで前編を思い出してほしいんやけど、朝7時半の福山は早すぎて¥320一発で終わった。それが昼13時の岡山ではダブルで鳴る。時間帯って、ほんまに大事やねんな。早発ちは移動には有利やけど、稼ぐには早すぎる時間に街を通過してまう。データで殴られる感じや。


岡山〜たつの、稼げない区間をひたすら走る
岡山、まだ稼ごうと思えば稼げた。けど、ここで俺は稼働をいったん切ることにした。理由がある。
岡山から、たつのあたりまでは、Uber Eatsのエリア外なんや。 つまり、この区間はどれだけ走っても案件が一件も鳴らん。給料ゼロ区間や。せやから「ここは稼げへんのやから、さっさと抜けてしまお」と。早く帰りたい気持ちもあったしな。
で、岡山の東からたつのまで、ひたすら無給で走る。国道をただ東へ、東へ。稼ぐでもなく、観光するでもなく、ただエリア外を通過するためだけに走る時間。これはこれで、Uber配達の現実の一部やなと思う。地図(アプリ)が「ここはエリア外」と線を引いてる、その外側を、俺はただ黙って走る。稼ぐ/稼がへんの二択やない。「そもそも土俵に上がれん土地を越える」っちゅう、三つ目の現実や。
姫路・網干で復活、と思ったら最後に逆走した
たつのを抜けて、姫路市の網干エリアに入る。ここでようやくUberの圏内に戻ってきた。稼働再開や。
15:29、KFC 網干店 ¥469(8.5km/21分)。エリア外をずっと無給で走ったあとの一件やから、鳴った瞬間ちょっとホッとした。「おかえり、圏内」って感じや。

で、問題はこの次や。
15:52、ガスト 姫路網干店 ほか、配達(2)のダブルで ¥1,264(15.4km/47分)。単価がええ。¥1,264はこの日でもトップクラスや。おっ、と思って飛びついた。……飛びついたんやけど、ドロップ先を見たら、たつの方面やった。
そう、さっき無給で必死に抜けてきた、あのたつのや。網干まで来て、やっと明石に近づいたと思ったのに、高単価に釣られてまた西へ引き戻された。旅の最後の最後で、Uターン。地図を見て「いや、戻るんかい」と自分で自分にツッコんだわ。単価につられる俺の性(さが)と、アプリが振ってくる案件に、帰路の締めくくりでもしっかり振り回された。

しかもオチがある。このダブルで運んだ「ほっともっと」の弁当、お茶を渡し忘れた。それに気づいたの、全部終わって家に帰ってからや。7日間、四国ぐるっと走りきって、旅のいちばん最後の配達で、お茶一本渡し忘れる。……格好つかんな。でもまあ、これが俺の配達や。最後までスマートには終わらせてくれへん。
18時、明石着。四国は「縦断した」だけ
たつのへのUターンを終えて、そこからは稼働を切って、まっすぐ明石へ帰った。家に着いたのは、だいたい18時ごろやったと思う。
7日間。明石を出て、和歌山から南海フェリーで徳島に渡って、香川、愛媛、高知と回って、しまなみ海道で本州に戻って、倉敷まで稼働して、明石に帰ってきた。四国を、縦に貫いた。
達成感は、ある。ちゃんとある。……けど、「四国を制覇した」とは、口が裂けても言えん。
正直に言うわ。丸一日ガッツリ稼働できたんは、実質徳島くらいなんや。あとは移動しながら拾えるとこで拾った、って感じで。まだ一回も鳴らせてへん土地がなんぼでもある。善通寺、三豊、坂出――香川だけでもまだまだや。松山も、高知も、ほんまは丸一日どっぷり走ってみたかった。そう思いながら、素通りに近い形で抜けたエリアがいくつもある。
せやから、これは「制覇」やない。「縦断した」だけや。四国は、俺がまだ知らん顔を、山ほど残してる。
ほんで、この旅を成立させてくれたもんについて
最後に、ちょっとだけ真面目な話をさせてくれ。
この7日間、俺は「稼ぎながら旅する」て散々書いてきた。けど、よう考えたらこれ、Uber Eatsっちゅうプラットフォームがなかったら、一個も成立してへん。
バイクと金だけあっても、こんなことはできひん。「行ったことない街に着いて、その日のうちに稼いで、その金で次の街へ進む」——この回し方ができるんは、あれが全国どこでもオンラインにできるからや。
場所を選ばん、っちゅうこと
これ、当たり前みたいに使てるけど、冷静に考えたらとんでもない話やと思う。
徳島に着いた朝、俺は右も左も分からんかった。土地勘ゼロ、知り合いゼロ、そもそも前の日まで一回も来たことない街や。それでもスマホをオンラインにした瞬間、そこが「仕事場」になる。明石で覚えた一個のスキルが、海を渡った先でそのまま金に変わる。
しかも俺はバイクやから自走で行ったけど、手段はそれだけちゃうねん。
自転車の人やったら、もっと身軽や。電車でも飛行機でも好きなように現地入りして、向こうでレンタサイクルを借りて、それでオンラインにすればええ。車両を運んでいく必要すらない。
車でもできる(軽貨物の黒ナンバーがいるけどな)。エリアによっては徒歩——ウォーカーっちゅうやつ——でも配達できる。
極端な話、身ひとつで新幹線に乗って、降りた街を歩いて配達する、なんてこともできてまうわけや。
「稼ぎながら旅する」の間口、俺が思てたよりずっと広い。
一件一件が、小さな冒険やった
ほんで、これが一番言いたいことなんやけど。
配達の一件一件が、ちゃんと冒険やってん。
知らん店の名前がスマホに出て、ナビ頼りに向かって、初めて入る建物で、初めて会う人に渡す。善通寺では自衛隊の駐屯地に出くわしたし、宇多津では「町」やのにタワマンが建っとった。徳島では路側帯の荒れっぷりにビビってすり抜けを封印したし、尾道の夜は崖みたいな坂の上の家を探して右往左往した。
全部、観光では絶対に行かん場所や。
実際、峠としまなみはUberのエリア外やった。あそこは走って、絶景を見て、それで終わっとる。きれいやったで。きれいやったけど、それだけや。オンにしてた区間だけ、街の裏側まで入り込めた。
観光客でもない、住人でもない。その中途半端な立場やからこそ見える景色がある。それを、一件¥300とか¥400もらいながらやらせてもらえる。……よう考えたら、贅沢な話やで。
文句も散々言うたけどな
正直に書いとくと、この旅でUberに腹立てた場面もある。
徳島では急に鳴らんくなって「よそ者やから配車を渋られてるんちゃうか」て被害妄想したし、尾道では保温バッグの件で店と揉めて案件を蹴った。東尾道の店メモには「今どきそれ書く?」て内心毒づいた。
そういうのも全部そのまま書いてきた。ええとこだけ並べる気はないからな。
けど、そのうえで言う。
こんなプラットフォーム作ってくれて、ありがとう。
おっさんが思いつきで四国縦断して、行く先々の知らん街で金を稼いで、旅費の7割を自分で取り返す。そんな無茶が成立する仕組みが、この世にあるっちゅうこと自体、なかなかすごいことやと思う。
で、やってみたい人へ
もしこれ読んで「ちょっとおもろそうやな」て思た人がおったら。
先に言うとくけど、俺はこの旅で2万2,882円のマイナスや(数字は収支編で1円単位まで晒しとる)。せやから「Uberで稼げます」みたいなことは、口が裂けても言わん。
俺が勧めるんは、稼ぐ道具としてやない。旅を成立させる道具としてや。
行きたい街に行って、そこでオンラインにする。それだけで、その街が「通り過ぎる場所」から「潜り込む場所」に変わる。それがおもろい。金は、そのおまけについてくる。
始め方が気になったら、Uberの公式ページ見てみ。全部そこに載っとる。それ以上、俺から言うことはない。
また来る。でも、同じ道では行けんかもしれん
だから、また来る。今度は逆周りで、前回スカスカやった土地をちゃんと一日ずつ潰していく――そういうリベンジを、頭のなかで組み始めてた。
……んやけど、ひとつ引っかかることがある。
この旅のスタート地点、南海フェリーが、もう長くないらしい。調べたら、2026年の春に南海電鉄がフェリー事業からの撤退を発表してて、和歌山〜徳島の航路は2028年3月末をめどに終わる予定なんやと。設備の老朽化や人手の問題で、その時期はもっと早まる可能性もあるらしい。約50年続いた航路が、無くなる。
俺がこの旅を始めた朝、和歌山発5時30分の始発フェリーに、荷物満載のリード125ごと乗り込んだ。あの一便が、四国縦断の入口やった。その入口が、あと数年で消える。
「また来る」とは言うた。逆周りで、とも思てる。でも、次に俺がリベンジしようと思ったときには、このルートは、もう同じ形では走れんのかもしれん。同じ道を、同じフェリーで、っていうのは叶わんかもしれん。そう思うと、この7日間が、なんだか一回きりの、もう二度と同じようには繰り返せん旅やったような気がしてくる。
まあ、湿っぽく終わるのも俺らしくないな。四国は逃げへん。フェリーが無くなったら無くなったで、橋を渡ってでもまた行く。行きたい土地は、まだ山ほど残ってるんやから。
7日間、四国縦断 Uber Eatsの旅。読んでくれてありがとう。これにて完結や。ほな、また次の旅で。
【四国縦断 Uber Eatsの旅|シリーズ一覧はこちら → https://funkysay-g.com/category/shikoku-uber/ 】

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