新居浜での”拉致”を振り切って、俺は松山を目指した。中編の続きや。
西条を抜けて、桜三里の山を越えて――松山までの道は、また無音。でも今日はもう、鳴らんことに焦らへん。稼ぎのためやのうて、行きたい方へ走ってるんやから。
そして、松山市の市街地に入った、その瞬間やった。
14:53、松山到達。1発目は、またうどん

久しぶりに鳴った。うどんの瓢月。
- ¥564/9.3km/26分
「松山、来た――」。振り切って無音を走り抜けた先の、この1発は格別やった。しかも、松山での初仕事がまたうどん屋。今日は道の駅とよはまのうどんに始まって、松山でもうどんに帰ってくる。四国、どこまでいってもうどんと縁が切れへん。
時刻は14:53。しおりでは「松山稼働17:00」の予定やったから、これまた2時間以上の前倒しや。無音の一日が、皮肉なことに、俺を予定よりずっと早く松山へ運んでくれた。
大都会・松山と、チンチン電車
1件配って、いったん手が空いた。単発やったんで、先に今夜の宿――ドーミーインの場所と、駐輪場を確認しにいくことにした。
ここで判明した、しおりのミス。**宿は「道後」やと思い込んでたけど、正しくは「大街道(おおかいどう)」**やった。松山の中心市街地のど真ん中や。おかげで、宿も夜メシも稼働も、全部この大街道界隈にギュッと集約されることになる。
そして、松山の街に着いてまず思ったのが――でかい。都会や、ここ。
道にはチンチン電車(伊予鉄の路面電車)がひっきりなしに走ってる。アーケードの大街道商店街は人でにぎわってる。新居浜や四国中央の工業地帯を抜けてきた身には、この都会っぷりが眩しくてしゃあない。「楽しそうな町やなあ」と、素直に気分が上がった。
チェックインは15時から。荷物を置いて、洗濯物だけホテルのランドリーに放り込む。駐輪場は、歩いて2分くらいのところを案内された。……まあ、大街道の脇道にはバイクがようけ路駐してあって、「わざわざ駐輪場入れんでもええんちゃう?」とちょっと思たけど、そこは大人しく従っとく。


稼働リスタート。1発目はホテルの向かい(笑)
洗濯を回してる間に、松山で稼働をリスタート。……したら、1発目がまさかのホテルの真ん前やった。

松屋 松山大街道店、¥320(2.6km)。宿の向かいの松屋を、宿から出た瞬間に配達する。出来すぎやろ。
そこからは、都会・松山らしくコンスタントに鳴った。


- 16:24 CoCo壱番屋 松山久万ノ台店(ダブル案件)¥746/8.5km
- 17:15 白虎麻辣湯 新空港通り店 ¥412/4.3km
ついに麻辣湯(マーラータン)まで登場や。うどん→カレー→つけ麺→松屋→麻辣湯。今日配達した飯を並べるだけで、ちょっとした無国籍フードコートができあがる。
渋滞に捕まって、稼働終了
もうちょっと松山で稼ぎたい気持ちはあったけど、夕方の松山は渋滞がえげつない。都会や。朝あんなに無音の田舎道をスイスイ流してきたのに、いざ都会に来たら、今度は車の列で前に進まへん。この落差も、また松山らしい。
それに、今夜は晩飯と夜遊びが控えてる。Day2もDay3も、宿に入ったらもう寝るだけやったけど、今日は違う。時間もたっぷり余ってる。よし、今日は旅の夜を楽しもう。そう決めて、ホテルへ帰還した。
この日の配達は、ここまでで10件・¥5,344。Day2の¥13,186、Day3の¥9,130と比べたら、数字はきっちり右肩下がりや。……けど、それはまた最後に話すとして。まずは飯や。
鯛めし難民、再び――そして、お散歩マップ
ホテルに戻ると、洗濯物が洗い終わってた。乾燥機に入れ替えて、さあ晩飯や。
実は、ホテルの裏口のところに、宇和島式の鯛めしをメニューに出してる居酒屋「みやび家」があるのを見つけてた。着替えて、よし行くか、と乗り込んだら――本日満席。
……まさかの。Day3の骨付鳥に続いて、また”ご当地メシ難民”か。この旅、ほんまにご当地の名物にありつけへん呪いでもかかってるんちゃうか。

諦めきれず、フロントで「このへんで鯛めし、どこがおすすめですか?」と訊いてみた。すると、お散歩マップをくれて、教えてくれた。しおりで本命にしてた「もとやま」も、すぐ近くにあると。
マップを見ると、もとやまの営業は11:00〜19:30。時計はもう18:49。……ギリギリや。でも、歩いてすぐの距離やという。行けるか。行くしかない。

もとやま。ギリギリ滑り込みで、呪いは解けた
――間に合った。
閉店ギリギリの時間に滑り込んで、ついに宇和島鯛めし もとやまの暖簾をくぐった。
出てきたのは、宇和島式の鯛めし。炊き込みの松山式とちごて、宇和島は「生」。新鮮な鯛の刺身を、生卵を溶いた特製のタレにくぐらせて、あつあつのご飯にのせて掻き込む。海藻、ネギ、わさび、大葉。器の並びを見ただけで、これは間違いないやつやと分かる。
値段はそれなりに張る。けど、一口食うて――感動した。マジのうまさやった。

考えてみたら、これは大きい。Day3の骨付鳥は、結局食えずに”幻”のまま終わった。ご当地メシに振られ続けてきたこの旅で、ようやく本命のご当地グルメを、しかも最高の状態で掴んだんや。
しかもそれは、緻密なしおりが用意したから食えたわけやない。新居浜で拉致を振り切って、西条を早々に流して、松山に早く着いて、閉店ギリギリに滑り込んだ――今日一日の、自分の判断の積み重ねが、この一杯に繋がった。計画やのうて、勢いと勘で掴んだご褒美や。だから、よけいにうまかった。
ちなみに店内には、蛇口をひねるとポンジュースが出てくるやつがあった。愛媛あるあるや。「おっ」と思たけど、有料やったんで、やらんかった。……金運の聖地で拝んだくせに、ここでしっかり倹約する。俺はそういう配達員や。
松山の夜は、まだ終わらへん
鯛めしで腹も心も満たされて、さあ――ここからは、大人の時間や。
稼ぎに一喜一憂した一日の締めくくり。松山は都会や。夜は、まだ長い。
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松山の夜は、いろんな意味で”大都会”やった、とだけ。
(※本誌未収録。袋とじの中身は、規制により空っぽです。開けてくれてありがとう)
石手の湯と、ギリギリの夜鳴きそば
夜遊びから戻って、最後はやっぱり風呂や。ドーミーインの温泉「石手の湯」。看板を見て気づいたけど、これ、ちゃんとした天然温泉やねん。一日中バイクにまたがってこわばった体を、本物の湯でじっくりほぐす。効くわあ。
そして、ドーミーインと言えば名物の夜鳴きそば。無料で振る舞われる、夜食のあっさり醤油ラーメンや。提供は21:30〜23:00。……これまた、ギリギリの時間に滑り込んで、なんとか一杯ありついた。
あっさりした醤油スープに、半熟卵とメンマとネギ。コーラと一緒に啜る、締めの一杯。


……よう考えたら、今日は一日中ラーメンやらカレーやらを配達し続けた男が、一日の最後に、無料のラーメンを啜って締めくくったわけや。なんちゅうオチや。
稼ぎは減っても、旅は濃くなる

Day4の稼ぎは、¥5,344。
Day2が¥13,186、Day3が¥9,130、そしてDay4が¥5,344。毎日きっちり、稼ぎは減っていってる。数字だけ見たら、そら寂しい。
でもな、と思う。
この一日を振り返ってみいや。うどんに、黄金持ちの聖地。模擬天守の川之江城に、エリエールの紙のまち。味は微妙やったけどクール便で買うたえびちくわ。沈黙を破ったココイチ、拉致を振り切った瞬間。大都会・松山とチンチン電車。ギリギリで掴んだ、感動の宇和島鯛めし。規制された夜。石手の湯と、締めの夜鳴きそば。
稼ぎは減っていくのに、旅は日に日に濃くなっていく。
たぶん、それでええんやと思う。これはもう、金を稼ぐための出稼ぎやのうて、金を稼ぎながら旅をする、っていう、そういうもんに変わってきてる。財布は軽なっていくけど、一日の手触りは、どんどん重たくなっていく。
明日はいよいよ、四国最後の県――高知や。旅も、後半戦の折り返しに入る。
――Day4、これにて完。Day5へつづく。
(つづく)
【四国縦断 Uber Eatsの旅|シリーズ一覧はこちら → https://funkysay-g.com/category/shikoku-uber/ 】

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