Day4の夜、松山・大街道のドーミーインで俺はこう書いた。「稼ぎは減っても、旅は濃くなる」と。
そして迎えたDay5。いよいよ四国最後の県、高知へ向かう日や。松山から高知は、山をひとつ越えなあかん。長丁場になるのは見えてたから、7時過ぎにはチェックアウトして宿を出た。
一応オンラインにして、松山を抜けながら稼ぐ作戦や。Day4の丸亀の朝もそうやったけど、宿を出た瞬間にオンラインにする、この習慣が板についてきた。
7:51、朝イチもマクドナルド
案の定、松山を出てすぐ鳴った。マクドナルド松山南店。¥320、3.75km。松山の”南”店やから、これから南下して高知を目指す俺にとっては、方向的にロスの少ないええ1件や。
――ちなみに言うとくと、この日は一日中、やたらとマクドナルドに縁のある日になる。朝のこの1件を皮切りに、最終的にマックを何回運ぶことになるか。それはまた後編で。
R33、山へ
配達を1件こなして、いよいよ本格的な山越えや。松山から高知へは、国道33号(R33)。松山を南に抜けて、久万高原町を通って、三坂峠を越えて、県境をくぐって、仁淀川沿いに下って高知へ――という、王道のルートや。
山に入る手前で、俺はアプリをオフラインにした。この先はしばらく配達エリアも店もないし、なにより山道で通知にピコピコ気を取られてたら危ない。ここからは配達員やのうて、ただのツーリングライダーや。
「めちゃくちゃ高いとこに居るやん!」
旧道を、くねくねと登っていく。カーブ、カーブ、またカーブ。連続する曲がり道に神経を使うから、正直、自分がどんだけ登ってるのかの感覚が麻痺してた。「体感、そんなに高いとこまで来てへん気がするなあ」――そう思いながら走ってた。
けど、だんだん涼しくなってくる。真夏やのに、風がひんやりしてきた。
そして、ふと視線を下界に向けた瞬間や。
「……めちゃくちゃ高いとこに居るやん!」
眼下に広がる景色に、思わず声が出た。なんでか知らんけど、股間のあたりからゾクゾクッとしたもんが這い上がってくる。俺、高所恐怖症ちゃうはずやねんけど……何かの拍子で、なってしまったんやろか。あとで調べたら、この三坂峠あたりは標高700mを超えるらしい。そら、体感がバグるわけや。
そして、新車が――コテッ。
そのゾクゾクのせいか、それとも別の理由か。
おしっこも催してきたし、そろそろ休憩しよ、と路肩の広くなってるところにバイクを停めた。サイドスタンドを、カチャッと立てる。
……その瞬間やった。
体が、バイクと反対方向に、ふらっと傾いた。
あ、と思う間もなく、「コテッ」。何もないところで、ゆっくりと、バイクごと倒れた。
新車が――(泣)。
幸い、停車中でスピードはゼロ。俺自身は、かすり傷ひとつない。全然大丈夫や。バイクを起こして確認したら、ミラーとボディに傷は入ったけど、走行には全く問題なし。立ちゴケの、いちばん典型的なやつや。
でもな。バイク乗りなら分かってくれると思うんやけど、この「停まってる時にコテッといくやつ」が、いちばん悔しいんよ。走行中の転倒とちゃう。危険な目に遭ったわけでもない。ただ、いちばん気の抜けた瞬間に、自分の油断だけで、新車に傷をつけてしまう。ダメージはバイクより心のほうがデカい。
しかもや。さっきまで「高いとこ怖っ」ってあんだけ神経ピリピリさせてたのに、そのオチが「停車中に自分でコテッ」て。緊張しといて、これかい。……我ながら、笑うしかなかった。
思えば、Day1でも「新車トラブル地獄」に見舞われてた。あれから四国をぐるっと回って、ここへ来てまさかの自損や。新車との付き合いは、なかなか一筋縄ではいかん。
「もうちょっとだけ、我慢してたら……」
気を取り直して、おしっこを済ませて、さあ再出発。
……したら、立ちゴケした場所から、ほんのちょびっと走っただけで。
道の駅があった。
「san san パン工房(サンサンパン工房)」。テントの下にベンチもある、山あいのパン屋兼休憩スポットや。
……いや、もうちょっと。もうちょっとだけ我慢して走ってたら、ここで安全に停まって、トイレも済ませられたやんか。なんなら――ここでパンでも食うて、朝飯を入れとけたやんか。
そう、実はこの日、俺は朝飯を食うてへんかった。宿を出てすぐ配達に入ってもうたからな。空きっ腹で山道を走って、高所でゾクゾクして、平衡感覚もちょっとおかしなってた。立ちゴケの遠因は、たぶんこの空腹や。
つまり――この道の駅で朝飯さえ食えてたら、そもそも立ちゴケてなかったかもしれん。「もうちょっと我慢してたら」が、二重にのしかかってくる。
まあ、済んだことはしゃーない。ここで遅めの朝ごはん、パンを食うた。腹に何か入れると、やっと人心地ついた。

仁淀ブルー
パンで復活して、再びR33を下っていく。ここからは、仁淀川沿いや。
「仁淀ブルー」で有名な、あの川や。深い山あいを、澄んだ水が流れていく。白い瀬があって、その奥のトロ場が、吸い込まれそうな青緑にきらめいてる。青空が出て、山の緑が濃くて、川が青い。立ちゴケの泣きどころから一転、思わずバイクを停めて見入ってしまう、ご褒美みたいな景色や。
Day4では”紙のまち”のパイプラインに唸ったけど、Day5のこの区間は、文句なしに仁淀川や。四国は、走るたびに違う顔を見せてくれる。

――さて。山を越えて、川を下って、いよいよ四国最後の街・高知が近づいてきた。
長い無音の山越えを抜けた先で、俺のスマホは、ふたたび鳴り始める。そして高知の街は、思いのほか俺に優しかった。
続きは中編で。走りやすい高知と、あの豪快な”ファイヤー”の話や。
(つづく)
【四国縦断 Uber Eatsの旅|シリーズ一覧はこちら → https://funkysay-g.com/category/shikoku-uber/ 】

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